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(出典:AACR) |
米国臨床腫瘍学会(ASCO)と共に米国二大がん学会である米国がん学会(AACR)は、今年コロナウイルスの余波により毎年行われる年次総会を4月27日、28日の両日間オンラインで開催した。米国がん研究学会の2020年度仮想年次総会(AACR Virtual Annual Meeting 2020)は、4月27〜28日と6月22〜24日、総2回に渡って行われる。
最初の日の27日には、現在進められていたり、完了されたバイオ臨床試験に関する発表が主に続いた。28日には「コロナウイルスとがん」というテーマの総会で始まり、開発進行中の新薬や治療法に関するシンポジウムと総会が相次いだ。
米国東部時間で午前9時に開催された「コロナウイルスとがん(COVID-19 and Cancer)」仮想総会は7つの発表で構成された。各発表では中国の武漢、イタリアのミラノ、フランスのパリ、スペインのマドリッド、イタリアのナポリ、米国のニューヨークなど、世界主要国と都市のコロナウイルス現況とがん患者に関する色んな統計数値が公開されて、それに伴う視点や意見が共有された。
最初に行われた同济医学園(Tongji Medical College)のリ・ジャン(Li Zhang)教授の「中国でコロナウイルスの期間中に行われたがん患者治に対する経験」以降に披露された6つの発表内容は次のとおりである。
イタリアのIRCCS国立がん研究所(Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori)のマリーナ・グラシノ(Marina C. Garassino)教授は、自分が属しているテラボルト(TERAVOLT、国際胸部がんコロナウイルス協業)コンソーシアムの「胸部悪性腫瘍患者に及ぼすコロナウイルス影響に関する初グローバル協業結果」を紹介した。テラボルトでは8カ国で胸部がん患者200人を対象に調査した。公開された調査結果の特徴としては、34.6%の高い死亡率が出て、ほとんどの死亡者ががんではなくコロナウイルスにより死亡したと発表した。合併症としては肺炎と急性呼吸窮迫症候群が最も多く発見されて、多くの患者が病室不足やその機関の原則などの理由により、集中治療室入院が難しかったという点を強調した。
マリーナ・グラシノ教授は「腫瘍の種類や治療法は生存率に影響を及ぼさなかったし、多変量解析でも死亡リスクと関連する要因は探しにくかった。胸部がん患者の死亡率が高い理由については、集中治療室に入院できなかった患者の長期入院と、それに伴うコロナウイルスの感染やリスク増加であるだろう。」と述べて、「この調査は不足している追跡調査や偏った分析などの限界があるかもしれないが、テラボルトはコロナウイルスに関連する特徴などのデータを提供するために継続して調査を続けていく。」と伝えた。
続いてフランスのギュスターブルーシーがんセンター(Gustave Roussy Cancer Campus Grand Paris)のファブリス・バレシー(Fabrice Barlesi)教授は、「コロナウイルスに感染したがん患者とがん治療法の毒性分析結果」の発表を行った。本発表の調査は3月14日から4月15日までギュスターブルーシーがんセンターから管理した総7,251人のがん患者を対象に行われた。総3,616人が入院し、そのうち12%(137人)がコロナウイルスの陽性反応を見せたと述べた。4月20日の時点で死亡率は14.6%(20人)であり、これはフランスの平均死亡率(18.3%)と似ているという点が強調された。また、臨床的悪化が示された34人(24.8%)の患者は、血液学的疾患を患っていたり、50歳以上で、コロナウイルスの診断時にCRP検査を受けたり、がん治療で細胞毒性化学療法を使用した履歴があったと付け加えた。
ファブリス・バレシー教授は「ギュスターブルーシーがんセンターの感染者や死亡者の確率的数値を見たとき、全世界の数字と大きな差がない。がん患者にコロナウイルス治療法がさらに攻撃的や致命的だという証拠は見つかっていなかった。寝たきりの患者や、血液学的疾患があったり、細胞毒性化学療法を使用した患者には特別な管理が必要である。」と明らかにし、「適切なコロナウイルス検査と保護措置を通じて、がん患者の管理は十分に行われるはずだ。」と述べた。
スペインマドリッドのオクトゥブレ大学病院(Octubre University Hospital)のカルロス・ゴメスマーティン(Carlos Gomez-Martin)博士は、「コロナウイルスの腫瘍学的実践適用:スペインマドリードでの外来患者分類から、特定治療に関するリスク評価」をテーマとした発表を行った。3月9日から4月19日まで総287人のがん患者を検査した結果、約26%が感染判定を受けており、最初の63人の患者のデータが公開された。80%以上の患者が転移性疾患を持っており、40%が肺関連のがんを患ったと発表した。死亡率は約25%(16人)であり、肺関連のがん、好中球減少症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などが主要な危険因子として表れた。また、トシリズマブ(Tocilizumab)治療法を活用した結果、15人の患者のうち9人が生存するなどの肯定的な結果が現れたと述べた。
カルロス・ゴメスマーティン博士は、「コロナウイルス対応で入院患者の場合には、病棟に入る前に血液検査やCT撮影を必須的に進めて、疑い、感染、陰性判定患者の全部他の病棟に配置した。」とし、「コロナウイルス治療法は総合的に行われなければならない。特定の抗ウイルス治療薬が含まれるべきであり、支持療法が伴われ、炎症性変数を常に管理しなければならず、血栓塞栓の危険を防止するために抗凝固剤の適切な使用が要求される。」と述べた。
イタリアのIRCCS国立がん研究所(Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori)のパオロ・アシエルト(Paolo A. Ascierto)博士は、「コロナウイルス感染患者を対象とした腫瘍薬使用経験」の発表を行った。パオロ・アシエルト博士が所属する機関では、400人の患者のうち2人だけがコロナウイルスに感染判定を受けており、すべてトシリズマブ(Tocilizumab)の治療法を使用して、10日以内に陰性判定を受けることに成功したと発表した。トシリズマブは抗IL-6の薬物で、サイトカイン放出症候群を患う患者に有効的だと知られている。そしてコロナウイルスの症状である急性呼吸器ストレス症候群は、過度のサイトカインの生成から発生するものだと説明した。
パオロ・アシエルト博士は「患者と医療スタッフの両方を安全に守ることを最優先にし、患者の治療法や病気の状態に応じて優先順位を決めて患者の感染を最大限に防いだ。」とし、「肯定的な結果を示したトシリズマブの効果を確実に知るために、3月19日から約330人のコロナウイルス肺炎患者を対象に2相臨床試験を開始した。目標は一ヶ月死亡率を下げることで、この他にもサリルマプ(sarilumab)の臨床試験も進行している。」と述べた。
米国の大型がんセンターであるMemorial Sloan Kettering Cancer Centerのルイス・ボイト(Louis P. Voigt)博士は、「曲線は平らに、しかし格差は広く」をテーマに発表を行った。彼はまずニューヨーク州のコロナウイルス関連状況を説明した。4月22日現在、死亡率を人種や民族性に区分したとき、ヒスパニック(Hispanic)系の患者(34%)とアフリカ系アメリカ人の患者(28%)が60%以上であったと明らかにした。死亡者(15,740)のうち合併症の場合には高血圧(9,028)が最も高く、がんは1,154であったと付け加えた。
ルイス・ボイト博士は「非入院および非致命的入院患者の場合にも、白人とアジア人よりヒスパニック系の患者と黒人患者の割合が高かった。アフリカ系アメリカ人の人口ではがん発生率や死亡率とコロナウイルスとの発生率と死亡率全部が高かった。しかし、現実はより複雑なため気をつけなければならない。まだ多くの時間とデータが必要である。」と伝えた。
また、「ファンデミクは最も脆弱な患者に多大な影響と次善策または標準から外れた治療のための完璧な環境を造成する。ファンデミクが行われている間に医療システムが圧倒されて、意思決定が事実ではなく恐怖と感情によって行われる場合があるからである。脆弱な人々は注意を払わなければ安全網の外に落ちるかもしれない。我らはがんとコロナウイルスからこれらを保護するために、より強力な安全網を作るべきだ。」と明らかにした。
最後に、武漢大学中南病院(Zhongnan Hospital of Wuhan University)のホンビンチャイ(Hongbing Cai)教授が「がん患者はコロナウイルスにより脆弱である」というテーマで発表した。彼女は105人のがん患者と同じ年齢のコロナウイルスに感染された536人の非がん患者を含む多機関研究を進めたと述べた。研究結果によると、コロナウイルスに感染されたがん患者がすべての否定的な結果で高いリスクがあることが分かった。血液がん、肺がん、または転移性がん(4段階)患者が致命的な症状で最も高い頻度を示した。一方、非転移性がん患者は非がん患者と類似な頻度を示した。また、手術を受けた患者は放射線治療のみを受けた患者に比べて重症発症リスクが高かった。
ホンビンチャイ教授は「これらの結果はがん患者がコロナウイルスのより脆弱であることを示す。この研究では『コロナウイルスとがん』と関連して最初の大規模な集団研究であるため、全世界のがん患者に役立つことができる多くの情報を提供する。」とし、「自己隔離、厳格な病院内感染管理、オンライン医療サービスはもちろん、がん患者の腫瘍の種類や段階に応じて個別な治療計画を備えることが推奨されている。」と付け加えた。
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