ITセクターは、再生可能エネルギーの巨大な消費者であると同時にデジタル化によるエネルギートランジションを支える役割を担っています。先端技術調査を専門とする米調査会社ラックスリサーチの新しいレポートによると、ITセクターは世界の電力消費量の約1%を占めており、その割合は増加しつつあります。ただし、その電力消費量は、Facebook、Amazon、Microsoft、Google、Appleといった限られた大手企業に集中していることから、気候対策は不可欠であると同時に比較的容易であるとも言えます。
ラックスリサーチのレポート、『The Energy Transition of the IT Sector: Market Forecast and Opportunities(ITセクターのエネルギートランジション:市場予測と事業機会)』では、ITセクターにおけるエネルギートランジション動向を取り上げ、同セクターがエネルギートランジションにもたらす事業機会と脅威を取り上げています。
データセンターの利用とトラフィックは、過去10年間において年平均成長率では35%から40%の間で増加しています。一方、データセンターのエネルギー使用量は比較的横ばいで推移しており、2010年の194TWhから2020年には201TWhへと増加しました。世界のデータセンタの電力使用量は緩やか且つ効率的に伸びているにもかかわらず、依然として懸念すべき理由があります。
本レポートの筆頭著者でラックスリサーチのヴァイスプレジデント、Arij van Berkel, Ph.D.は説明しています。
「この10年間で明確となった傾向は、Facebook、Amazon、Microsoft、Google、Appleなどの大手テクノロジー企業が所有する(あるいは契約している)巨大なデータセンターの数が増加傾向にあるという点です。ITセクター全体でみると、データセンターによる電力消費量はごくわずかに増加したに過ぎないものの、これら大手テクノロジー企業による電力消費量は前年比で平均20%増加しており、43%に達した年もあります。
大手テクノロジー企業への社会政治的な圧力を強まっている中、このような電力消費量の増加も、同セクターの社会的な地位へと影響を与えかねません。しかし、同業界を悩ませている課題の中で、カーボン・フットプリントはおそらく最も解決が容易なものであると言えます。なぜなら、大手テクノロジー企業にとって、スコープ1とスコープ2の排出量を脱炭素化するためには自然エネルギー電力を確保するという明確な道筋があるからです。すでに大手テクノロジー企業、またITセクターは業界レベルで見ても、電力購入契約(PPA)の活用においてリードしています。大手テクノロジー企業はこのような方法で自然エネルギー発電容量への巨額の投資を可能にしているため、努力を誇るべきでしょう。
一方、これら企業はエネルギートランジションによってもたらされる事業機会には積極的に関与していないのが現状です。これら企業は関心を表明しているものの、エネルギートランジションには二の次で、独自に積極的に動くというよりは、他社のローンチカスタマーとして参加する姿勢を保っています。
電力会社にとって、ITセクターのエネルギートランジションにおける当面の事業機会としては、データセンターの増強を計画している大手テクノロジー企業に魅力的なPPAを提供し、カーボン・フットプリントの削減に貢献することです。ITセクターはパートナーであり、エネルギーセクターへディスラプションをもたらす者ではありません。大手テクノロジー企業にPPAを提供することは、電力会社が自然エネルギー発電資産の設置ベースを急速に成長させるための優れた方策となりうります。 ただし、より競争の激しい市場においては、長期的に考えると、単純にPPAを提供するだけでは不十分であり、電力会社は魅力的なPPAを超えた付加価値サービスを探求すべきであり、差別化要素として、データセンターに向けたエネルギーマネジメントソリューションを提供することを検討すべきです。」
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